備忘録:2021 年の振り返りと2022年の抱負

以下、自分の備忘録として記録します。

表題の件、旧年中に書き終えようとしていたものの、予想通りに筆が重く、いやキーボードを押す指が重く、いろいろと言い訳を考えているうちに年が明けました。おめでとうございます。また旧年中は大変お世話になりました。

2021年は社会にとって、そしてもちろん私にとっても「コロナ禍」の2年目です。本職では割と他人と接する機会の多い職業ではあるのですが、「接し方」において「ちょうど良いライン」を見つける作業がひと段落したのが2021年の前半でした。
「このくらいの感染対策を「正解」としていきましょう」という合意形成(落とし所)を関係者間で見出す作業が一段落したのが、振り返れば五輪のある夏場くらいまで続いた気がします。

「奇術」に関していえば、私自身は9月と10月にワクチンを接種し、世間的にも11月頃からの急激な感染減少もあって、少しずつ外のイベントに目を向ける気が起きました。
尤もこの文章を書いている2022年1月時点で感染者はやや拡大傾向とのことで、果たして今後どうなるのかわかりませんが。

2021年の振り返り「書いたもの」

さて、2021年は「アウトプットの年」と目標を決めていました。2年以上かけて書き上げた『近代日本奇術文化史』が2020年10月に刊行され、時間的余裕が生まれるだろうと考えたからです。ちょうど2020年の10月頃に奇術研究家の松山光伸さんからお声かけいただき、日本奇術協会の機関誌「Newワン・ツー・スリー」に、2021年から「奇術史研究ノート」と「新・舞台奇術ハイライト」を連載することになりました。以下、同誌に書いたもの。

日本奇術協会「Newワン・ツー・スリー」

  • 奇術史研究ノート「マックス・マリニと日本 1」
  • 奇術史研究ノート「マックス・マリニと日本 2」
  • 奇術史研究ノート「マックス・マリニと日本 3」
  • 奇術史研究ノート「1930年代朝鮮半島の「偽天勝」と松旭斎天左」
  • 新・舞台奇術ハイライト 蘇る平岩コレクション「一徳斎美蝶」
  • 新・舞台奇術ハイライト 蘇る平岩コレクション「松旭斎桜の水芸流し」
  • 新・舞台奇術ハイライト 蘇る平岩コレクション「松旭斎天勝」
  • 新・舞台奇術ハイライト 蘇る平岩コレクション 「天勝十七回忌」

「奇術史研究ノート」という連載では、「初回は来日したマジシャンをやりましょう」と協会と打ち合わせました。日本には戦前のサーストンやダンテといった大御所から戦後はリトルウッド、ルポールなど外国の著名マジシャンが何度かやってきましたが、あまり詳しい調査はありませんでした。初回はマックス・マリニ。

平岩白風(1910-2005)という人は新聞記者をやりながら奇術を研究していた人で、その道の著書も非常に多いです。彼の死後、膨大なコレクションは日本奇術協会へと引き継がれ、これを整理・アーカイブして紹介していこうという企画です。大学で学芸員の資格を取って追いてよかったと思います。資料はとにかく膨大で、特に写真がアーカイブしがいがあります。デジタルアーカイブになれば良いとは思いますが、課題もあり。

しかしこう振り返ると、思いの外、書いてないですね(少しショックなほど)。

2021年の振り返り「調べたもの」

コロナ禍が続いたこともあり、却ってデジタルアーカイブの調査が捗りました。特に海外のデジタルアーカイブからは松旭斎天二、Tenka Troupe、Asahi Troupe、Nishihama Matsui Troupe、初代一徳斎美蝶、松旭斎天栄、T. Kajiyama、Yamamoto Koyoshiらの写真、さらに吉田菊五郎が香港で興行したプログラム、久世喜夫の経歴、ヨーロッパに渡った隅田川松五郎の1910年頃までの足跡などが見つかりました。天二の写真をご遺族(お孫さん)にお見せしたところ、初めて見るとのことで大層喜んでいただけたようで何より。

あと嬉しかったのは、戦時中に中国大陸慰問に行っていた芸人団の膨大な渡航リストを防衛省のアーカイブで見つけたこと。これは漫才や太神楽、漫談、浪曲まで色々あるので、神保喜利彦さんにお知らせした次第です。氏の同人研究誌「藝かいな」に一部翻刻が載っております。自分でもこれをエクセルで集計しており、データベースにしたいと考えているところ。

上記は「デジタル」での発見ですが、「リアル」も徐々に解禁したことが2021年です。まず1月4日に新宿末廣亭に行き、松旭斎小天華先生を見ました。小天華先生は進駐軍慰問でデビューして現役。その後も何度かお話を伺って、色々教えていただきました。

 

また松旭斎天左の遺族に辿り着こともでき、8月に貴重な写真を見せていただきました。
天左は明治生まれの奇術師で、世間一般には「青い目の落語家」初代・快楽亭ブラックの息子(養子)として知られます。映画と奇術を組みわせた、なかなか先進的な芸をやっていますが、晩年の写真を見せていただくことができ、これは奇術史的に大きな発見となりました。

10月には小野坂東氏(トンさん)にインタビューし、戦後の日本奇術史について取材。これは次のテーマとしてしっかりとまとめていく最中。

2021年の振り返り「行ったこと」

残念だったのは、9月20日予定されていた「第2回 奇術史研究会」(@江戸東京博物館)が中止になったこと。私は「奇術と映画のイリュージョン」と題して、『近代日本奇術文化史』の内容をアップデートして話す予定でした。新型コロナウイルス感染者が7月、8月には数千人に登りましたから、この判断もやむを得ないことだったと思います。結果、研究会は2022年3月に延期となりました。

【開催決定】第2回 奇術史研究会:日程が変更になりました

不定期に「奇術の歴史」に関して情報共有・発表する場として、極めて個人的な「奇術史勉強会」を始めたのは10月です。初回は「私家版 日本奇術漫画大鑑」をまとめられた田中洋太郎さんがゲスト。

十人以上が参加していただき、何かの手応えを感じました。また12月は「石田天海の『奇術五十年』を読む」読書会も初開催。これは継続し、次回は2022年1月20日。

こういう活動を通して思ったのは「奇術を語りたい」人が意外と多くいること。パフォーマンスを「見せる」場所というのはSNSでも、リアルな場でも結構見るようになりましたが、「語る」場所というのはまだ少ない印象で、まだまだ発展の余地があるように思います。

2022年に向けて「アウトプット」

やはり、引き続いて「アウトプット」の年にすべく頑張ります。「奇術史」で言えば、『近代日本奇術文化史』の次のプロジェクトが正式にスタートし、脱稿時期が2023年と決まりました。「まだ先か」などと思っているととんでもない苦労を未来の自分にさせてしまうので、2022年は1月から段階的に、着実に、しっかりと書いていきます。

次の目標は「Gibecière」に記事を出すこと。Conjuring Arts Research Center(CARC)が刊行している奇術史を専門とした機関誌で、日本からは松山光伸さんしか記事を掲載していません。英語で書くのが、非常に難しいですが・・・。

そして最後に、中国や韓国、台湾などアジアの奇術史を巻き込みたい。台湾の高松豊次郎と天一の関係、シンガポールのHarima Hallと吉田菊五郎、日本への奇術伝来の経緯など、アジア規模で研究したら相当面白いんじゃないかと思います。リアルイベントは厳しいのでオンラインでしょうか。

2022年に向けて「展望」

2021年までの私の活動は、自分自身でも驚くほど「奇術史」にどっぷり浸かりました。その理由は第一に「楽しいから」なのですが、恐らく「奇術そのものを研究したい」という大学の頃からのテーマがその根底にあったように思います。

そこで、2022年はこれまで蓄積してきた知識やコンテンツを踏まえて「奇術そのもの」に意識的に取り組もうと思います。そして美学、社会学、表象文化論、演劇や歌舞伎などの専門家に「奇術を面白がってもらいたい」。そして「語ってもらいたい」。絶対に面白いものが生まれるんではないかと思います。

そのためにはインプットも重要なので(上記で「アウトプットの年に!」と言っておいて早速違うことが言いますが)、本を読み、見て、語ることもやっていきたいところ。例えばマイケル・フリードの「芸術と客体性」を奇術の視点で読書会やっても面白いのではないかと。

あとは細く長く勉強会を続けること。奇術史に関心を持っている人がこんなにいてくれたのかという新鮮な驚きがあったので、同好の士と交流したい。

10月にトンさんに取材した際「あと一人くらい、若い人と組んでやると良いよなあ。君一人じゃいくら時間があっても終わらないだろう」と言われました。・・・確かに奇術史は「手つかずの山」「未開の地」が多すぎて、手が回りません。資料の整理も追いつきません。どなたか一緒に活動してくださる方、ご連絡ください。

いろいろと備忘録として書き連ねましたが、一年前の自分はこんな目標を立てていたんですね。結局「天一」は脱稿せず、これは2022年以降の「藝能史研究」への投稿を目指して頑張ります。

2022年に向けて「テーマ」

  • 奇術史プロジェクト「現代」編(とにかくこれをやらないと、終わらない)
  • 「松旭斎天一の欧州巡業」脱稿
  • 平岩コレクションアーカイブ化
  • 天海メモ翻刻とアーカイブ化
  • 海外渡航芸人
  • 松旭斎系図
  • 日本メンタルマジック史
  • 寄席の手品
  • 奇術とテレビ
  • Mr.マリック論
  • ナポレオンズ論